L28/32H型4サイクルエンジンのピストン抜き(動画解説付き)

4サイクルエンジンの整備作業を行うとき、取扱説明書の資料だけでは実際の作業のイメージが掴みにくいのではないでしょうか?

この記事は以下のような人のために書かれています。

<この記事がおすすめの人>
・取扱説明書の資料だけでなく、インターネットで整備作業について調べている
・動画を参考に4サイクルエンジンの整備作業のイメージを掴みたい
・国産エンジンと海外製のエンジンの違いを比較したい

今回は2サイクル主機関として世界的なシェアを持つMAN社がライセンスを持つL28/32H型4サイクルエンジンの総合的なメンテナンスの解説です。

日本国内ではヤンマー、ダイハツ、新潟原動機や阪神内燃機工業、赤阪鉄工所などの舶用4サイクルエンジンが広く流通しており、2サイクルエンジンとしては良く知られるMAN社ですが、4サイクルエンジンはあまり見かけないのではないかと思います。

動画中のナレーションが英語のため、日本語で解説致しますので、是非ご覧下さい。

L28/32H型4サイクルエンジンの総合的なメンテナンス作業の全工程とは?

作業は大きく分けて以下の5工程で行われます。

L28/32H型4サイクルエンジンの総合的なメンテナンス作業の工程
1.シリンダヘッドアクセサリー類の取外し
2.シリンダヘッドの取外し
3.ピストンの抜出し
4.ピストンの取付け
5.シリンダヘッドの取付け

行程①シリンダヘッドアクセサリー類の取外し

ここからは下の動画の解説をしていきます。

この作業は以下の工程で行います。

1.作業前の確認
2.シリンダヘッド配管、アクセサリー類の取外し

行程①シリンダヘッドアクセサリー類の取外しの詳しい解説

まず、シリンダヘッド取り外しのため、油圧ジャッキを用意します。

全シリンダのインジケータ弁を開け、燃料油ポンプと燃料弁を覆うカバーを取り外します。

シリンダヘッド周辺に取り付けられた細かい配管を外します。取り外した細かい配管はシリンダごとにまとめておくのがオススメです。

シリンダごとの冷却水出口配管も取り外します、この配管もシリンダごとにまとめておきましょう。

排気マニホールドへ繋がる配管もボルトを外しておきます。

行程②シリンダヘッドの取外し

この作業は以下の工程で行います。

1.油圧ポンプを用いてシリンダヘッド締め付けのナットを取外す
2.シリンダヘッドの取外し

行程②シリンダヘッドの取外しの詳しい解説

シリンダヘッド締め付けのナットを取外すため、油圧ジャッキを取り付け、油圧ホースを繋ぎ、規定油圧をかけます。

トミーバーが入る穴が見えるようにジャッキの窓の位置を調整しましょう。

全てのジャッキ、油圧ホースを取り付けたら、油圧ポンプでジャッキにゆっくり油圧をかけます、昇圧中はホースに漏れがないか確認しましょう。

油圧ポンプの圧力が規定値まで達したら、トミーバーでナットを緩めます。

もし、ナットが緩まない場合は油圧を規定値より少し高めに設定します。

ナット周辺にペイントがべた塗りされてナットが緩まない場合もありますので、ジャッキを取り付ける前にペイントをはがしておきましょう。

ナットが緩んだらジャッキを外し、吊り上げ工具を取り付け、シリンダヘッドをチェーンブロックで持ち上げます。

行程③ピストンの抜き出し

この作業は以下の工程で行います。

1.ピストン抜出しの準備
2.クランクピンボルトの取外し(トルク締めの場合)
3.クランクピンボルトの取外し(油圧締めの場合)
4.ピストンの抜出し

行程③ピストンの抜き出しの詳しい解説

まず、ピストンの抜き出し前に、シリンダライナの上部のカーボンを取除きます。

ピストン吊上げのアイボルトを取付ける穴をタップで掃除します。

ピストンの抜出し時にライナーも連れて出てこないように、シリンダーライナ押さえ工具を取付け、ピストンには吊り上げ用のワイヤーとアイボルトを取付けます。

クランクピンボルトを取外すため、クランクケースのカバーを開けます。

クランクピンボルトは油圧で締め付けてあるタイプと、トルクで締め付けてあるタイプがあります。まず、ここでは、トルクで締め付けてあるタイプについて解説します。

クランクピンボルトを一本取り外し、ガイドピンを取り付けます。

連接棒大端部のキャップは非常に重いので、キャップがクランクケース内に落下しないようにガイドピンにはドライバーなどを差しておきます。

残りのクランクピンボルトを全て外し、大端部キャップを取外します。キャップを取外した後、ガイドピンを取外します。

次に、油圧で締付けてあるタイプについて解説します。

油圧ジャッキ、油圧ホースを繋ぎます。油圧ジャッキはトミーバーが入るように窓の位置を調整し、肌付きまで締め付け、締め付けから3/4回転戻します。

油圧ポンプで規定値まで油圧を上げます。

規定値まで油圧が達したら、トミーバーで締め付けのナットを緩めます。

全てのナットを緩めたら油圧を抜き、油圧ホース、油圧ジャッキを取り外します。

ナットを取外し、大端部のキャップを取り外します。

さて、ここからは共通の作業となります。

ピストンを上方に抜き出しますが、クランクピンメタルが落下しないように注意します。

シリンダーライナから、ピストンを抜出し、作業スペースまで移動させます。

作業スペースまで移動させたピストンの連接棒大端部に、先程取外したキャップを取り付けておくことで、合わせ面のセレーション部を保護することができます。

スナップリングを取り外し、ピストンピンを取り外します。

ピストンピンを取り外すことで、ピストン部と連接棒部分に分離できます。

シリンダーライナ押さえ工具を取り外し、エンジンフレームへ締め付けられているクーリングジャケットのボルトを外します。

クーリングジャケットをエンジンフレームから取り外し、冷却水のコネクターを取り外します。

コネクターのO-ringは全て新替えしましょう。

クーリングジャケット全体を清掃し、吸気入り口、クーリングジャケット下側のO-ringも新替えします。

行程④シリンダーライナ抜出しと挿入

この作業は以下の工程で行います。

1.シリンダーライナ抜出し
2.シリンダーライナ挿入

行程④シリンダーライナ抜出しと挿入の詳しい解説

まずはライナ抜き出しの専用工具を取り付けます。

シリンダーライナ抜出し専用工具のねじをねじ込むとシリンダーライナが持ち上がり、上方に抜き出すことができます。

シリンダーライナ上部のガスケットを取り外し、全体を清掃します。

ここからはシリンダーライナ挿入の工程です。

新しいシリンダーライナ、あるいは整備済みのシリンダーライナを新しいO-ringを装着し、取付けます。

吊上げたシリンダーライナを取付けます。

ガスケットを溝に合わせて取付けます。

行程⑤ピストン挿入

この作業は以下の工程で行います。

1.ピストン挿入の準備
2.ピストンの組立て
3.ピストン挿入
4.クランクピンボルトの締付け(トルク締めの場合)
5.クランクピンボルトの締付け(油圧締めの場合)

行程⑤ピストン挿入の詳しい解説

クーリングジャケット、冷却水のコネクターに新しいO-ringを装着し取付けます。

プッシュロッド保護管のO-ringを新替えし、プッシュロッドを取付けます。

ピストンの整備が終われば、ピストン組立て、取付けの工程となります。

連接棒大端部を吊り、整備済みのピストンの上に移動させ、ピストンピン穴には潤滑油を塗り、ピストンピンを取付けます。

ピストンピンを取付け、スナップリングを装着します。スナップリング装着の際はリングの張力が強いので、外れて怪我をしないように注意しましょう。

ピストンを移動させる際にピストンと連接棒を固定しておくため、隙間に木片を挿入します。

ピストンにピストンリング及びオイルリングを装着していきます。

段によってリングの種類が違うので注意して装着します。

オイルリングのばねの末端はオイルリングの合口と反対側にします。

ピストンリングには番号が印字されているので、装着前に正しい番号であることを確認しましょう。

折損に注意しながら、慎重にピストンリングを装着します。

ピストン挿入前に連接棒大端部のキャップを取外しておきます。キャップは再びクランクケース内で取付けます。

ピストンをシリンダーライナへ収める前に、ライナの上にピストンのガイドリングを取付けます。ガイドリングには潤滑油を塗ります。

ピストン挿入前に連接棒大端部へクランクピンメタルを取付けます。ピストン挿入時にメタルが落下しないように注意しましょう。

ピストンを挿入する際に、ピストンリングの合口方向をずらしておきます。リングの部分がライナに入る前に、リングの部分には十分な潤滑油を塗っておきます。

クランクケース内でクランクピンに潤滑油を塗り、連接棒大端部を迎えます。

ここからは、トルクで締め付けるタイプについて解説します。

クランクピンボルト取付けの際も、取外しの際と同様に、まずガイドピンを取付けます。

連接棒大端部キャップを取付けの際は向きに注意して取付けます。

ガイドピンで支えながら連接棒大端部キャップを取付け、ボルトには焼き付き防止剤を塗って締付けます。

締付けたボルトはトルクレンチで最終的に締付けます。トルクレンチのトルクを規定値に設定します。

ボルトの締付けは取扱説明書の指示に従って規定トルクで均等に締付けます。

このタイプは多段階に分けて締付けますので、第一段階のトルクで締付け、そこから60度を締付けます。60度締付けの目安としてペイントマーカーでマーキングしておきます。

クランクピンボルト第一段階の締付け60度を締付け後、最終的に確認の意味でトルクレンチを用いて締付けます。強い力でボルトを締付けるので、締付けの際は手を挟まないように気を付けましょう。

マイナスドライバーなどで連接棒大端部のキャップが自由に動くことを確認します。

クランクピンボルトは試運転後にもトルクレンチで締付けを確認します。

ここからは、油圧で締め付けるタイプについて解説します。

次に油圧ジャッキでクランクピンボルトを締付ける場合は、基本的にトルクレンチで締め付ける場合と同じですが、連接棒大端部のキャップを取付け、ナットを締付けて油圧ジャッキ、油圧ホースを取付けます。

規定油圧でナットを締め付け、締め付けが確実された後、油圧を抜きます

油圧での締付け後、トルクレンチで締付ける際と同様に、マイナスドライバーなどで連接棒大端部のキャップが自由に動くことを確認します。

行程⑥シリンダヘッド取付け

この作業は以下の工程で行います。

1.シリンダヘッド取付けの準備
2.シリンダヘッド取付け
3.タペットクリアランスの調整
4.配管の取付け

行程⑥シリンダヘッド取付けの詳しい解説

シリンダーライナ上部にフレームリングを取付けます。

ここからの工程ではシリンダヘッドを取付けます。

シリンダヘッド下部に新しいO-ringを装着します。

ピストン上や、シリンダーライナ上に異物がないことを確認し、吊上げた整備済みのシリンダヘッドを取付けます。

排気管との接続部にはガスケット挿入を忘れないようにします。

シリンダヘッド吊上げ工具を取外し、シリンダヘッド締付けのスタッドボルトとナットに焼き付き防止剤を塗り、スタッドボルトにナットを締付けます。

油圧ホース、油圧ジャッキを取付け、油圧ポンプで規定油圧をかけ、ナットを締付けます

全てのナットを締付けた後、油圧を抜き、油圧ホースと油圧ジャッキを取外します。

シリンダヘッド締付けが終われば、排気管のボルトを締付け、冷却水出口管を取付けます。

ここからは吸排気弁のタペットクリアランスの調整です。

まずは吸排気弁のカムがプッシュロッドを押していないことを確認します。

ロッカーアームのタペットクリアランス調整用ナットを緩めます。

フィラーゲージでタペットクリアランスを確認しながら、調整ねじでタペットクリアランスを調整します。調整出来たら調整ねじを固定しながらナットを締付けます。

画像の場合は作業員から見て手前の弁のタペットクリアランス調整を行っています。

この画像の場合は作業員から見て奥のタペットクリアランスを調整しています。

タペットクリアランスの調整が終われば、燃料油高圧管、潤滑油配管を取付けます。

全ての配管を取付けたら、まずは冷却水を通し、クランクケース内に冷却水の漏洩が無いかを確認します。冷却水の漏れがなければカバーを締めましょう。

行程⑦試運転

全ての部品の取付け、ボルトの締付けが終われば試運転をしましょう。

試運転時は漏れ、振動、異音、温度の異常などがないかを確認します。

試運転が終わった後、確認のため、クランクピンボルトをトルクレンチで締付けることをおススメします。その後、200時間運転後も同様にクランクピンボルト締付けを確認します。

まとめ

シリンダーヘッドの取外し、ピストン抜出し、ライナーの抜出し、ピストン挿入、組立て、と総合的なメンテナンスを解説しました。締め付けトルクや油圧ジャッキの規定油圧などはメンテナンスの前に取扱説明書を参照し、あらかじめ調べておくと作業がスムーズに進みます。

その他にも、新替え部品や専用工具など、メンテナンスに必要な準備をあらかじめ整えて、不安を残さずメンテナンスに臨むことをおススメします。

※この記事で使用した画像、動画はYouTubeチャンネル「MAN Energy Solutions」からの引用・スクリーンショットしたものを使用しています。