MAN社製大型船主機関ピストン抜き作業の解説(動画解説付き)

初めて主機関の整備作業を行うときって不安ですよね。
「主機関ピストン抜き作業の手順」について検索しても日本語の資料がとても少ないのではないでしょうか?

この記事は以下のような人のために書かれています。

<この記事がおすすめの人>
・英語の解説よりも日本語で解説している資料が欲しい方
・動画で作業手順を事前学習したい方

今回は大型船舶の代表的な主機関メーカーとして、圧倒的なシェアを誇るをMAN社製主機関のピストン抜き作業を動画解説付きで手順をご紹介致します。

大がかりな作業となる主機関のピストン抜きを安全かつ、確実に実行するため、動画を見ながら作業手順の理解を深めましょう。

動画中のナレーションが英語のため、日本語で解説致しますので、是非ご覧下さい。

MAN社製大型船主機関ピストン抜き作業の全工程とは?

MAN社製大型船主機関ピストン抜き作業の全工程とは?

MAN社製大型船主機関ピストン抜き作業は大きく分けて以下の6工程で行われます。

MAN社製大型船主機関ピストン抜き作業の工程
1.主機ピストン抜き作業 (主機関下段での作業)
2.主機ピストン抜き作業(主機関上段での作業)
3.ピストン抜き出しと計測
4.ピストンの整備(参考)
5.スタフィングボックスの整備(参考)
6.ピストン完備の挿入

それでは各工程ごとに詳しく解説します。

工程①主機ピストン抜き作業 (主機関下段での作業)

ここからは下の動画の解説をしていきます。

この作業は以下の工程で行います。

主機ピストン抜き作業 (主機関下段での作業)工程
1.クランクケースのドアを開ける
2.ターニングして、クロスヘッドの位置を調整する
3.スタフィングボックスの締め付けボルトを外す
4.ピストンロッド締め付けボルトを取り外す
5.スタフィングボックスの案内ボルトを取りつける

工程①主機ピストン抜き作業 (主機関下段での作業)についての詳しい解説

まず、クランクケース内部へ入る準備として、クランクケースのドアを開けます。

ターニングして、クロスヘッドの位置を調整します。

クランクケース内部は潤滑油によって大変滑りやすくなっています。中に入る際は注意して中に入りましょう。また、高所での作業になりますので安全ベルトを装着し、クランクケース内部で取り外したボルトは落下させないように注意しましょう。
クランクケース内部に入り、スタフィングボックスの締め付けボルトを外します。
このとき取り外すボルトは内側です。間違って外側のボルトを外さないように注意しましょう。

スタフィングボックスの締め付けボルトを取り外した後は、ピストンロッド締め付けボルトを取り外します。

取り外したら、スタフィングボックスの案内ボルトを取りつけます。

ターニングして、クロスヘッドの位置を調整します。

工程②主機ピストン抜き作業(主機関上段での作業)

この作業は以下の工程で行います。

主機ピストン抜き作業(主機関上段での作業)工程
1.シリンダカバーの取り外し
2.ピストンクリーニングリングの取り外し
3.シリンダライナー上部に付着したカーボンの除去
4.ピストンの位置の調整
5.ピストン吊り上げ工具の取り付け

工程②主機ピストン抜き作業(主機関上段での作業)についての詳しい解説

これらの作業と並行して、上部での作業はシリンダカバーを取り外しになります。

ここで、動画ではシリンダカバーの取り外しの工程は省略されていますが、シリンダカバーの取り外しは、安全に、確実に行いましょう。

さて、動画はシリンダーカバー取り外し後の作業になります。

ピストンクリーニングリングはタイプによっては装備されていないものもありますが、ピストンクリーニングリングが装着されている場合は、シリンダカバーの取り外し後、ピストンクリーニングリングを取り外します。

ここで、ワイヤブラシなどを用いて、シリンダライナー上部に付着したカーボンを除去します。冷却水の入り口管などから異物が入らないように養生しておきましょう。

カーボンを除去したら、ピストンの位置を調整します。

ピストン位置の調整は、ターニングを行うため、ターニングの際はクランクケースの内部の作業員とターニングを行う作業員がトランシーバーなどで連絡を取り合い、全ての作業員の安全を確保しながらターニングを行って下さい。

ターニングはピストンが上死点の位置に来るまで行います。

ターニング中、スタフィングボックスの案内ボルトと穴が合っていることを確認して下さい。

ピストンが上死点の位置に来たら、吊り上げ工具の爪をピストンクラウンにひっかけるために設けられた溝のカーボンをワイヤブラシ等で落とします。実際はカーボンの汚れが動画よりもひどいです。

ピストンクラウンの溝をきれいにした後、天井クレーンでピストン吊り上げ工具をピストンの位置まで移動させ、吊り上げ工具をセットし、取り付け用のボルトを確実に締めます。

工程③ピストン抜き出しと計測

この作業は以下の工程で行います。

ピストン抜き出しと計測
1.クレーンでピストンを持ち上げ
2.ピストンをスタンドに載せる
3.各部計測と部品の清掃

工程③ピストン抜き出しと計測についての詳しい解説

吊り上げ工具が確実にセットされたら、クレーンでピストンを持ち上げます。

このとき、ピストン持ち上げに抵抗は無いので、スムーズに上方へ抜けるはずです。

もし、ピストンがスムーズに上方へ抜けない場合は、どこかが当たっている可能性があります。作業を中断して、原因を探しましょう。

ピストンを吊り上げたら、抜き出したピストンのスタンドを用意します。

スタンドの上に抜き出したピストンを置き、ボルトでスタンドを固定します。

スタンドの上にピストンを載せ、ピストン吊り上げ工具を取り外します。

シリンダライナー下部にはカバーを置き、クランクケースへの異物の落下を防止します。

同様に、クランクケース内のクロスヘッドにもカバーを被せておきましょう。

次に、動画ではピストンリングを取り外す前に、ピストンリングの合口を計測していますが、時間がない場合はリングを取り外した後に計測しても良いです。

ピストンリング取り外し工具によって、ピストンリングをトップリングから順番に外していきます。

ピストンリングを取り外したら、ワイヤブラシ等でピストンクラウンに付着したカーボンを除去します。

カーボンを除去したら、ピストンリングの溝を計測します。

溝の幅が基準値以上に摩耗していないかどうかを確認しましょう。

動画ではノギスで計測していますが、新品のピストンリングを取り付けた後、ピストンリングとピストンリング溝のすきまをフィラーゲージで計測しても良いです。

次に、ブリッジゲージをクラウンに当てて、フィラーゲージによってピストンクラウンの触火面の衰耗を船首尾、左右舷の方向にて計測します。こちらも、基準値以上に衰耗していないかどうかを確認しましょう。

計測が終わったら、ピストンリングを装着します。

ピストンリングは新品を使いましょう。

機関のタイプによっては、リングの種類が違うことがあるので、ピストンリングの位置と種類を確認して装着しましょう。

動画のように2人で作業を行うとスムーズです。

工程④ピストンの整備(参考)

もし、動画の場合と異なり、予備のピストンを組み立て、抜き出したピストンを予備とする場合は、この行程を省略し、組み立て作業が終了したらこの行程によって抜き出したピストンの整備を行って下さい。

なお、この作業はピストンリングを装着せず行って下さい。

この作業は以下の工程で行います。

ピストンの整備(参考)
1.ピストンを上下逆さにする
2.ピストンロッドを抜き出す
3.ピストンクラウンとピストンスカートを分離する
4.ピストン組み立て
5.漏洩テスト

工程④ピストンの整備(参考)についての詳しい解説

ピストンロッドを寝かせた後、吊り上げ工具を付け替えて、ピストンを上下逆さにします。

下のように、クレーンが2つ使えると上下逆さにする際に容易に行うことができます。

ピストンスカート下部のボルトを固定しているロッキングワイヤーを取り外し、ボルトを外します。これで、ピストンロッドを上方に抜き出すことができます。

ピストンロッドをゆっくり抜き出した後、ピストンロッドを静置します。

ピストンスカート内側のボルトを取り外すことで、クラウン部とスカート部を分離できます。

吊り上げ用のアイボルトをねじ込み、スカートを持ち上げます。

全てのパーツを分離したら、清掃し、スカート部のシールリングは新品に取替えましょう。

このとき、カラーチェックでクラックの有無なども点検しておきます。

スカート部のシールリングにはオイルを塗って装着し、クラウン部に装着します。

スカート部締め付けのボルトにはモリコートなどの焼き付き防止剤を塗り、手締めします。

ピストンロッドのシールリングも同様に新品を装着します。

クラウンにはガイドボルトを装着し、ピストンロッドを挿入します。

クラウン部とピストンロッド締め付けのボルトにも同様にモリコートなどの焼き付き防止剤を塗り、手締めします。

内側から、トルクレンチによって規定トルクで締め付けます。外側も規定トルクで締め付けます。規定トルクは事前に調べて確認しておきましょう。

締め付けが終わったら、ロッキングワイヤーでボルトを固定します。

ピストンの組み立てが終わったら、テストツールを取り付け、シール部のテストを行います。

ピストンロッドに圧力をかけ、しばらく圧力ゲージが下がらないことを確認します。

テストが終わったら、ゆっくり内部の圧力を抜きます。

工程⑤スタフィングボックスの整備(参考)

動画ではスタフィングボックスの整備が省略されていますが、スタフィングボックスの取り外し、清掃、計測を行った上で、消耗部品の取替え、組み立て、ピストンロッドへの取り付けを行いましょう。スタフィングボックスの予備がある場合はこの行程を省略して下さい。

スタフィングボックスの整備は下の動画の解説をしていきます。

この作業は以下の工程で行います。

スタフィングボックスの整備(参考)
1.スタフィングボックスの分解
2.スタフィングボックスの組立

工程⑤スタフィングボックスの整備(参考)についての詳しい解説

スタフィングボックスカバーの上部にアイボルトを取り付け、チェーンブロックで両側から吊り上げます。

ピストンロッドへ作業台を取り付けます。

カバーからシールリングを外し、カバーを締め付けるボルトを外します。

片面のスタフィングボックスカバーを外します。

フィラーゲージ、ノギスなどの計測用具で各部の隙間が許容値内にあるかを計測します。

特殊工具でスクレーパリングのスプリングを取り外します。取り外す際には、スプリングが張力によって跳ねることがありますので注意して外して下さい。スプリングが外れたら、スクレーパリングを取り外していきます。スクレーパリング取り外しの際には、スクレーパリングには上下がありますので、部品の混同を防ぐため、マークをつけておくことをおススメします。

各部の計測と清掃が終わったら、ピストンロッドへスタフィングボックスを組み付けていきます。

スクレーパリングへスプリングを取り付けますが、取り外しの際と同様に、スプリングが外れて跳ねる可能性があるので、注意して取り付けを行って下さい。

全てのスクレーパリングをピストンロッドに取り付けたら、スクレーパリングの位置を調整し、カバーを当てながらリング間の隙間を整えます。

リング間の隙間が整えられたら、カバーを取り付けて、ボルトを締め付け、シールリングを取り付け、作業台を外したらスタフィングボックスの作業は終了です。

行程⑥ピストン完備の挿入

ここからは、冒頭のピストン抜き出し作業の動画解説に戻ります。

クランクケース内のクロスヘッド、シリンダライナー下部の作業中に被せておいたカバーは取り除いておきます。

この作業は以下の工程で行います。

ピストン完備の挿入
1.ピストン完備の挿入
2.各部の締め付け

行程⑥ピストン完備の挿入についての詳しい解説

スタフィングボックスの取り付けが終わったら、組み立てたピストン完備を持ち上げ、スタフィングボックスにはグリース、ピストンロッドには潤滑油を塗ります。

シリンダライナーの上部にピストン挿入のための案内工具を取り付け、潤滑油を塗ります。

ライナーの中にピストン完備を挿入します。

クランクケース内にも作業員を配置し、常にクランクケース内の作業員と連絡をとり、安全を確保しながら、ピストンをゆっくり下げます。

特にクランクケースで作業する際は安全に留意しましょう。

ピストン挿入前にリングの合口は燃焼ガスが吹き抜けないように、各段ずらします。ピストンリングにも十分な潤滑油を塗り、ゆっくりピストンを下げます。

このとき、ピストンロッドの下部がスタフィングボックスのフランジ鍵穴にぴったり合うようにピストンロッドの向きに注意して、微調整しながらピストン完備を下げます。

ピストンロッドの下部がスタフィングボックスのフランジ鍵穴を通ったら、クロスヘッドの上に載せます。

ピストン完備がクロスヘッドの上に載ったら、ピストンの吊り上げ工具とピストンの案内工具を取り外し、ターニングでピストンを下げます。

ピストンロッドから案内ボルトを取り外し、スタフィングボックスの締め付けボルトを締め付けます。規定トルクがある場合は、トルクレンチによって規定トルクで締め付けましょう。

ピストンロッド締め付けボルトを取り付け、規定トルクで締め付けましょう。

動画はここでおしまいですが、実際の作業では、シリンダカバーを取り付けます。

シリンダカバーの取り付けも、安全に、確実に行いましょう。

ピストンの抜き出し、挿入作業は以上で完了です。

まとめ

難解と思われがちなピストン抜き出し、挿入作業ですが、複雑な作業はあまり無く、注意する点としては、扱う部品のサイズと重量が大きく、まずは作業員の安全を確保することが大切です。

作業前には作業員全員でミーティングを行い、各自の作業分担を明確にし、不安や懸念を取り除いた上で作業に臨みましょう。

※この記事で使用した画像、動画はYouTubeチャンネル「MAN Energy Solutions」からの引用・スクリーンショットしたものを使用しています。